Act03

========== ACT 3 ==========

----- SCENE 1 -----

 そいつは、大きな銀色の羽根で太陽光を受けとめながら、赤道上空を回っていた。地表との距離は、地球の直径のざっと三倍。ちょうどそれくらいだと、地球の自転と同じ速度で運行できるのだ。
 そいつの名前は通信衛星。
  そこに積まれたトランスポンダ[*25]は、地球からの電波を受けとめ、そいつをいったん増幅して、再び地球に電波の雨を降らせている。宇宙空間に打ち上 げるまでには相当の労力と技術が必要なのだが、構造はいたって単純なのである。受け取った電波を何倍にも強くして送り返しているだけなのだから。

----- SCENE 2 -----

 そんな地表の、とある国の、とある街の、とある家。
 ハンカチで目頭を押さえる会葬者を縫うように、その老僧はゆっくり進んだ。二人の修行僧が後に従う。
  老僧は、一片の憐憫も抱いていないと言わんばかりの落ち着きようだった。仕切役の彼がおろおろしてはならないのだ。祭壇の前でちらと後ろを振り返り、無表 情のまま軽く頭を下げる。そして、正面に向きなおってゆっくり座ると、静かに香を焚き始めた。いくつものすすり泣きが背中で聞こえた。
 老僧は小さく咳払いをしてから、おもむろに鈴を鳴らし、低い声で経を読み始めた。
  まもなくしのび泣きの声が聞こえた。喪主の女が泣き崩れているのもわかる。参列者の注目がそこに注がれたであろう。と、その時、老僧は見事な早業で袂から スレイヴを取り出し、膝の上に置いた。参列者はおろか、二人の従者も気が付いていない。老僧は、読経を途絶えさせることなく、黒い画面にひっきりなしに流 れる電子の文字列をながめていた。

(埼玉麗子[*26])いまこそ決起よね
(モヒカン)和尚が首を縦に振るかなあ
(埼玉麗子)まっかせなさい!
(刑事部長)よ、こんばんわ
(商社マン)遅いじゃないか
(刑事部長)すまん、すまん
(埼玉麗子)サツは感づいてるの?
(刑事部長)大丈夫。ケムにまいた
(モヒカン)じゃ、あとは和尚だけだね

 そんな文字列が下から上へとだらだら流れ続けた。老僧は注意深くスレイヴを袂にそっと戻し、鈴を鳴らした。その鈴の音は、こころなしか大きく響いた。

========== ACT 4 に続く ==========

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