Act04

========== ACT 4 ==========

----- SCENE 1 -----

 亀井を乗せた列車はいくどか大きく揺れて、東京ディズニーランドに匹敵するほどのメルヘンチックな街に着い た。まるでおとぎの国。幼いころに読んだ絵本の中に飛び込んだ感じというのが近い。ライトアップされたミニチュア洋館が建ち並ぶ。そのどれもこれもがド派 手なのだ。その周囲を仲のよさそうな若い二人連れがどのお城にしようか、などと言いながらそぞろ歩きをしていたりする。車でやってくる恥ずかしがり屋さん も現れはじめた。
 もしもしピエロ、陽気なこびと、プロヴァンスの森に、吉田御殿… 亀井は目に付いた看板を片っ端から口に出し、ぶつぶつひとりごちた。
 門土と待ち合わせた「パソコン居酒屋」はJR桜宮駅周辺のラブホテル街の外れにあった。
 暖簾をくぐるとカウンターだけの小さな店の中で、背の高い女将がカウンターの内側でタバコをふかしていた。ほかに客はいない。
 「あらカメちゃん、おひさ。きょうはおひとり?」
 「いや、門土と待ち合わせなんだ。まずビールね」
 亀井はコートを脱いで隣の席に丸めて置き、背広の内ポケットからスレイヴを取り出して、カウンターに置く。女将から注がれたビールでのどを潤してから、亀井はそいつを開いた。
 「やっぱ、買って良かったっしょ」
 「うむ。なかなかだな」
 「門土ちゃんがあんなに勧めるだけのこと、あるのよん」
 女将もスレイヴを本格的に使っていて、仕入れ伝票から毎日の売上げを管理しているほか、手作り料理のレシピやら顧客データベースとかも入っているという。女将は和服の胸元からスレイヴをさりげなく抜きとった。
 「わっ、黒い」
 「う・る・し・ぬ・り・っ」女将はいたずらっ子の目で微笑む。
 「自分で塗ったのかね」
 女将は、うん、とうなづき、そいつに「キンサマ」いう名前を付けたのだと微笑む。てかてか黒光りするマシンを優しく撫でて軽くキスすると、再び胸元に納めた。
 「なんで金玉なんだよ」
 「いややわ、キンサマよ。うち、萬屋錦之介サマのファンなのよ」
 「ほう、そうか。じゃ俺は志茂田影樹にしようかな」
 「あら、ファンなの?」
 「いや、単に笑いを取るため」
 そんな軽口をたたき合っているうちに、門土が険しい表情でやってきた。

----- SCENE 2 -----

 「やー、すんません。ちょい、破れちゃって」きのうのエスニック料理店で見せた快活な色はない。
 「破れたって、なにがだよ」
 「えへ、痔です。一週間も続けてあのエスニック料理店に行ったのが祟ったんだ、って医者から言われましてね。えへ、そうなんです。さっきまで病院行ってたんですよ。夕方からズキズキして、早引きしたんですわ」
 「あれほど普段から、やせ我慢はいかん、リーマンは体が資本だと言っとるだろーが。調子に乗るからだ。バカもんめ」
 「やー、もー、辛いのはこりごりです」
 じゃアルコールはだめだわね、と女将はウーロン茶をグラスに注ごうとする。それを制するかのように門土は「それよりシズさん、ナプキン、ナプキン! ちょいとはさんでおきたいんです。できれば羽根付きの」と手を伸ばす。
 女将はバッグをまさぐって、ポケットティッシュ大の白い塊を手渡した。門土はそれを受け取ると内股でトイレに向かった。
 「奴もようやく大人の女になったんだなぁ」
 「お赤飯炊いてお祝いしないとねぇ」
 そんな調子で亀井と調子を合わせている女将は名前をシズという。最近までミナミのインターネット接続会社[*27]に勤めていたのだが、社長が夜逃げしたため、この店を始めたのだ。
  普通の居酒屋と違うのは、シズがコンピューターにめっぽう強いということで、それが証拠に、店内には『鉄学者クロサキのマネドスは至高の道具だ [*28]』などという分厚い本がカウンターにさりげなく置かれていたりする。暖簾に勘亭流で「紺譜伊具[*]」と横書きされていて、小さい文字で「パソ コンの環境相談に応じます」とある。門土お気に入りの店で、奴から誘われるときは必ずこの店になる。
 「どうです、カメさん、辞書のほうは」
 門土が内股でトイレから戻ってきて、そっと椅子に尻を乗せる。
 「それが」
 亀井はスレイヴをポケットから取り出して、使い方がまだわからんのだよ、と言った。
 「ならば」
 ということで、門土は亀井に懇切丁寧に使い方を伝授し始めた。
  デジタル辞書は、青キー一発で起動する『アネキの筆箱』の中にある「まぐれップ」という小さなプログラムを使えば使いこなせるという。まぐれップというの は、UNIX[*30]というOSを使う人々が開発したテキストファイルの文字列検索プログラムのGREP(グレップ)[*31]をマネドス用に作りなお したものだ。
 なんだか、わけの分からない用語が次々と出てくるもんだから、亀井はいらいらし始めた。
 「こないだカメさんのマシンにコピーしたデジタルの辞書、あれ、全部、テキストファイル[*32]なんですよ。テキスト」
 「なんだよ、それ」
 「テキストファイルというのはですねえ。あふあふ」門土は竹輪を口の中でほぐほぐしながら説明を始めた。
  「一女郎とかMSワーズとかいうソフトを使って文章を書いたとしますね。書いた文章は保存したい。その時に、一女郎とかワーズは、画面上の電子の文字を特 殊な形式で丸めちゃうんですよ。一般的に、一女郎で書いた文書は一女郎特有の形式で丸められているから、ワーズで読もうと思っても、ちょっとやりづらいん です。できないことはないんですけど。あふふふ」
 亀井は一気に気持ちが沈んだ。コンピューターの話などまったく興味はないのだ。ただの道具なんだから、いちいち勉強せんでも、使えればいいではないか。説明はやめてくれ。亀井の口元は、ヘの字になっている。
 「無駄よ、門土ちゃん、そんな正攻法で説明しても。カメちゃん興味なさそな顔してるやないの」女将が口をはさむ。「そんなことよか、他に客もいないことだし、久しぶりに、とろけそうな猥談でもしない?」
 亀井はカウンターに身を乗り出した。
 女将は濡れた唇を少し開いたまま淫らな微笑を作ってみせる。「女体の神秘、教えてほしい? カメちゃん」
 「うん、知りたい。閉店の看板を出そうか。シズさんの神秘を探ろう」生唾を飲み込む。
  「うふふ。同じ女でもさ」女将はうつろな目で少しため息を吐く。「素っ裸のときもあれば、着飾ったときもあるでしょ。パソコンのファイルにもテキストファ イルとバイナリファイルがあるの。テキストファイルっていうのは、文字と数字だけが並んでいるやつで、どんなワープロソフトでもエディターでもきちんと読 み書きできるわけ。でも、バイナリファイルっていうのは複雑だから、なかなか読めないのよ」
 女将は胸元からキンサマを取り出して、アネキの筆箱のボタンを押した。画面には英文が表示されていた。
 「これ、マーク・トゥエインの『人間とは何だ』の原文なんだけど、テキストファイルの一種なの。一女郎でも読めるし、MSワーズでも読める。でもね、もしこれが一女郎で書かれたものなら、アネキの筆箱では読めないの」
 亀井はすっかり白けきっていた。
 「なんだ、エッチな話などと言っておきながら、難しいパソコンの話じゃないか。知らんぞ、そんなもの。さ、早く、すっぽんぽんの女体の神秘の話をしてくれよ」
 「まあまあ、あとちょっとですから」門土が横からビールを注いでくれる。
 「焦らないの、カメちゃん。お楽しみはあとに取ってあるんだからン」
 女将が亀井に語ったのは、ワープロソフトで作った文書ファイルというのは、一行の字数や、文字間や行間のピッチとか、どこそこを倍角にして、どこそこをゴチック体するとか、いろんな約束事もまとめてギュっとひとまとめにして圧縮保存されているということだった。
 「だけど、テキストファイルは素っ裸。必要があったら一女郎風の大島紬も着れば、ワーズ風のボディコン姿にもなれる。で、門土ちゃんがカメちゃんにあげたっていうデジタル辞書は、どれもこれも、あられもない姿をしてるってわけ。どう? エッチでしょ」
 門土が言葉をつなぐ。
 「で、裸の女の体を調べるのが、さっき言ったgrepなんです。で、まぐれップっていうの、スレイヴ用に開発されたプログラムなんですよ。こいつがテキストファイルの中にある言葉をグリグリ探し回るんですわ」
 「ふふふ。グリグリが感じるのよ。あっはーん」シズはよろめき加減で亀井にビールを注ぐ。
 「どんな風に使うのかね」
 亀井は自分のスレイヴを開いて、アネキの筆箱を起動した。
 門土はスレイヴのキーボードのEscキーの上にある、Menuキーを押すと、画面の上に窓のブラインドのようなメニューが現れた。カーソルを上下に動かすと、それにつれてメニュー項目の白黒反転した部分が上下に動く。
  「こういうのをプルダウンメニューっていうんですわ。えらそうにしてるウインドウズもマックも、みんなこういう方式で選択肢から選ぶようになってるんで す。スレイヴはDOSマシンなのに、ウインドウズやマックと同じくらい操作しやすくなってましてね。ささ、カメさん、これを選んでください」
 たしかにメニューの中に「まぐれップ検索」というのがあった。門土は亀井のマシンに指を置いて、そこに反転部分を合わせた状態でEnterキーを押した。すると、すぐ右側に「対象ファイル」と「検索語」を入れる小窓が出てきた。
 門土は対象ファイルの部分に、こないだコピーしてくれたデジタル辞書類のファイル名を入力した。ファイルを指定すると、まぐれップが、そのファイルの中の文字列をくまなく探し回るのだという。
 悪戯っぽい表情をして、門土は検索語のところに「電動こけし」という単語を入れて、Enterキーを押した。
 「そんな単語、あるもんか」
 「いえいえ、あるかもしれませんよ」
 「あったらいいわねえ」
 三人は顔を寄せ合って画面に見入った。
 ピポン! ほどなくそんな音がして、新たな四角い箱が開いた。

【1件ありました】
対象ファイル四省国語.TXT
バイブレーター《外》 [vibrator]
(1)医療器具の1つ。振動器、電気あんま器。〈昭〉(2)女性用性具の1つ。陰茎をかたどった、電気で振動する装置。電動こけし。〈現〉

 「おおっ」亀井は息をのんだ。
 「ね、ね、ね! あったでしょ。で、よーく見てくださいな。『電動 こけし』ってのは、見出し語じゃなくて、説明文のほうにあるんです。これこれ、これぞポイントの一つ! つまりですね、カメさんが実際に紙に印刷された辞 書をひっくり返して『電動こけし』っていう項目を探そうとすると、『て』のところのページをめくっていくでしょ? でも、まぐれップは見出しも本文もお構 いなしで、とにかく丸ごと探しまくるわけなんです。だから、辞書の逆引きもできるんです」
 「そんな短時間に、すべてのページを一気に探し回るのか」
 「そう。すべてのページを短時間で。しかも探し漏れがない」
 亀井は思わず唸ってしまった。いくら辞書引き名人がいても、まぐれップに勝てるやつはいないだろう。
 「デジタル辞書は良いことずくめなのよ、カメちゃん。何冊もの辞書を持ち歩くなんてこと、ふつうしないでしょ。でも、テキストファイルにしたら、スレイヴに何冊入れても、重さはゼロときてるんだから」
 「うーん」
 亀井はまたしても腕を組んだまま唸るしかなかった。恐るべし、デジタル辞書。こいつは大きな武器になる。
 「カメちゃんさぁ。まぐれップってもっといろんなことに使えんのよ。たとえばね」
 そういってシズは漆塗りのキンサマを亀井の目の前で開いて実演したのは、トゥエインの『人間とは何だ』の中で、疑問符の「?」がいくつ出てくるかという検索であった。
 ピポン!
 「ほーら、五百四十三個だわン。すごいでしょ」
 「すごいな。でも、それがどうしたんだ?」
 「でも、もしカメちゃんが目を皿のようにして数えていったら、何日もかかるでしょ。そんなとき、まぐれップがあれば一瞬よ」
 「ああ、まあな。でも」
 「いえ、だから、シズさんが言ってるのは、いろんなことに使えますよっつーことなんです。たとえば、スレイヴで日記を書いていて、一年間振り返って『自殺』とか『絶望』とかいう言葉を何回使ったか調べるときとかに」
 「おいおい」
 そんなやりとりをしながら、亀井はふと、シズがマシンに愛称を付けていたことを思い出し、笑みを漏らした。
 ふふふ。よし、俺はこいつを「助松ゴロシ」と名付けよう。そして、アネキの筆箱とまぐれップとデジタル辞書を駆使して、憎っくき平賀を打ちのめすような何かを書いてやる。そんな闘志がわき上がる。
 二時間が過ぎた。
 「いやぁ、ほんと勉強になった。俺もちょっとずつDOSのお経を読むようにするよ。ところで、二人にはなにかお礼をせねばなぁ、こんなに丁寧に教えてもらって」
 亀井がそう口走ったとき、門土と女将は目を見合わせて、ニッと笑った。
 なになに? なんなの? その意味深な笑いは。何か企んでたの?
 「なんでもありませんよ。ただ、仲間が一人増えたってことを喜んでただけですわ」
 「そそそ。チーム・マネドスのね」
 えーっ? お前ら二人とも、ハッカー集団の一味だったのか。
 「べつに隠してたわけじゃないですけど」
 「まぐれップを作ったのは、アタシなの。ふふふ。でも今晩からカメちゃんもアタシらの仲間。しっかり活動してもらわないとねえ」
 「よしてくれよ。俺みたいなパソコンのド素人にどんな協力ができるっていうんだ。なんつーか、富士通のCMに出てる高倉健みたいなもんだからな、俺なんか」
 「いーえ。ステテコおじさんのほうだわ」
 「で、どんなことしろっていうんだよ」
 「なーに、簡単なことよ。データ入力をしてほしいの、世のため人のため。たとえばぁ、著作権の切れた文学作品とか、改正された法律の条文とか。アタシがいま見せたマーク・トゥエインの小説だって、アメリカ人が一生懸命、手作業で入力したのよ」
  「それ、マイケル・ハートっていう学者が中心になってやってるグーテンベルグ計画[*33]っていうんです。二〇〇一年までに一万冊を電子化するっていう のが目標なんですって。で、われらチーム・マネドスとしても、ハートさんに習って日本でもあらゆる文書を電子化しようと思ってんです。もち、電子化した文 書ファイルは、ぜーんぶコピー自由にします」
 亀井は首をかしげざるを得ない。コピー自由だったら一生懸命入力した人は報われないじゃないか。それに、そんなことをしたら出版社は困るだろう。本が売れなくなる。そんな疑問をぶつけてみた。
 「知識と情報の平等化のためですよ。いまのニッポン、情報や知識があまりにも偏ってますから。たとえば法律」門土は人差し指を立てた。「いったい自宅に六法全書を持ってる人、どれくらいいるでしょうねぇ」
 「ま、百軒に一軒といったところじゃないかな。うちにもないな」
  「そんなだから、世間の人はみんな法律オンチになっちゃう。んで、法律は、法律家と役人どもの思い通りになる。でもですよ、法律条文がすべての人に平等に 与えられていたら、判事や検事、弁護士とまではいわないまでも、それなりに法律に詳しい人の比率は上がりますよ。いつでもだれでも、どこからでも、無料 か、あるいは無料に近い費用で、法律に素早くアクセスできたら、人々の法的意識は確実に上がります」
 門土は演説調になり拳固を振りかざす。
 「ほんとほんと。すべての家庭用のパソコンで法律の条文がグリグリ検索できたら、青少年に与える影響は大きいはずよ」
 亀井は腕を組んでしばし考えた。
  「情報を平等にするということはすごい意義深いものがあるってこと、もう、カメさんにもわかってもらえたでしょ。なにも法律の条文だけじゃない。あらゆる 公文書が平等に配られる可能性を、コンピューターネットワークは秘めているんです。そうして社会は、いや、人類は確実に進歩します。ね、カメさんも一緒に やりましょ。つまらん小市民の一人として生きるよりも、有意義なことを」
 それから三十分ばかり、門土と女将は亀井を洗脳にかかったが、それらは やはり亀井には興味のない世界だった。俺はリーマンであり、一家の大黒柱であり、悪妻の夫であり、可愛い娘の父親だ。たしかにボランティア活動に興味がな いわけではない。だが、それらは定年退職後にやっても遅くはないことだ。それに、俺には、平賀にガツンと一発かますような、これまでにないジャンルの作品 を書くという大きなプランがある。
 「悪いけど、そんな大それたことに興味はないよ。わかるだろ、俺はただ、書斎が持てなかったから門土に勧められてスレイヴを買っただけ。な、わかるよな」
 亀井が頭を下げた途端、女将が「殺すど、われ」カウンターの向こうから包丁を突きつけた。
 あわわわ。
 亀井はのけぞる。
  「あはは、ごめんなさい。冗談よ、じょーだん。無理強いなんてしないから。ちょっとだけ頭の隅に置いておいてくれればいいの。変ちくりんなアメリカ人の おっさんがいた。コピー自由のソフトを作ってきたチーム・マネドスのアタシたちも、おっさんからえらく触発されたっていうこと。アメリカにはね、グーテン ベルグ計画のほかにも、フリーソフトウエア基金[*34]っていう団体もあるの。リチャード・ストールマンっていうおっさんが作った団体なんだけど、これ もすごいのよ。世界中から寄付を募ってコピー自由のソフトをたくさん作って公開してるわ。アタシも前の会社にいたとき、ずいぶんお世話になったもの。いい のがたくさんあるの。こういうのって、ある意味じゃ革命的でしょ」
 「そそ。政治運動なんてものとは違うし、お手々つないで祈りましょうってのとも違うけど、やっぱり革命的ですよ」
 亀井はシズに関東煮のお代わりを頼んでから、門土のほうに向きなおった。
 「すまんが、そういうの、興味ないんだ」
 門土はちょぴり寂しそうな顔をしてみせた。
 「カメさんが書こうとしているアレじゃないけど、チーム・マネドスだって、ジャンルのないことをやろうとしてるんですよ。強いていゃあ、情報のあり方をちょっと良くしたいってこと。いまはまだ、わかってもらえないかもしれないけど」
  決して邪険にしているのではない。亀井はそんな熱心な門土の言葉を亀井なりに受けとめようとしていた。それは一種の社会奉仕のようなものなのだろうという ことはわかる。だけど、そんな運動は、パソコンを持っていない人にとっちゃ、なんの意味もないではないか。機械に強い者が情報をたくさん扱うことができる が、機械に疎い者との格差はますます広がっていくんじゃないのだろうか。
 はたしてコンピューターは小市民を救うのだろうか。
 しかしまあ、今夜はスレイヴの使い方をみっちり教えてもらったのだ。感謝しなければならんな。
 「ひとまず、今夜は感謝してるよ」
 亀井が門土の肩をポンとたたいたとき、門土は、ギャッ、という悲鳴をあげて、椅子から崩れ落ちた。
 ?
 うぉっ、くわーっ。
 呻吟する門土の顔は赤く、ズボンのケツも鮮血で真っ赤である。
 なんてこった。俺は、ただ、肩に手を置いただけなのに、それが、肛門を刺激したのだろうか。
 「やっぱりパンティライナーじゃだめだったのね」シズがつぶやく。
 床に転がった門土は、呻き声を歯の間から漏らしながら、うぐぐぐっ、と肘でほふく前進し、トイレを目指す。ケツから血はどくどく流れている。
 「おい、門土よ、大丈夫か」
 亀井が立ち上がろうとして、とっさにカウンターに手を伸ばしたが、そこには、熱々の関東煮の皿があり、弾みでひっくり返った。
 ガチャン。
 湯気をあげるスジ肉と糸こんにゃくが、亀井の頭上をトカチェフ跳びして、門土のケツに着地する。
 あぢぢぢぢぢぃーっ。門土は体を痙攣させていた。
 「おい、シズさん、救急車だ!」

========== ACT 5 に続く==========

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