Act05

========== ACT 5 ==========

----- SCENE 1 -----

 とくにジャンルはない。
 ばっきゃろめ。
 小説でも論文でも評論でもエッセイでもない。俺が書こうとしてんのは、そんな軟弱なもんじゃないのだ。
 この世には、まっとうに生きている人間と、軽佻浮薄に生きている人間との二種類がある。まっとうの典型は俺・亀井遠士郎で、クズのほうはジェリィ平賀である。これは、幾千万人の衆目の一致するところであり、かちんこちんに決定している。
 俺はいま「助松ゴロシ」という愛称を付けた小さなコンピューターを使ってこれを書いている。君島助松。そいつはジェリィ平賀というペンネームで卑しく生きるマスコミ芸者であり、俺の学生時代の同級生である。
 話は、ややさかのぼる。
  妻が買っている『大地』というエコロジー系の雑誌に、君島が一年ほど前に連載した『風水トレンディ~命の輝きをあなたに』というコラムがあった。そいつ は、まるでバイ菌のようにうちの妻と娘に感染した。女たちは熱に浮かされたように、何冊もの風水本を読みあさり、風水ライフに突入した。
 妻と娘 は、俺が将来受け取る賃金を見込んで(そいつはローンという名の肉体切り売り料の前借りだ)強引に一戸建てを買った。君島の風水占いには、九つの邪悪な教 えがあった。時期やら方角やら、水まわりやら、とにかくいろいろであった。女どもは、そいつに従って間取りを決めた。
 おかげで俺は書斎を持つことが許されなかった。そんなことってあるか。ちくしょう。書斎は俺の夢だったんだぞ。
  やや晴れがましいが、事実だから記しておこう。俺はサラリーマン川柳に応募して三席に選ばれたことがある。会社の標語でも三回も入選した。会社はじまって 以来の快挙だった。もはやすべて言うまでもないだろう。俺の言葉には、まっとうに生きてきた者だけが語り得る真実があるのだ。
 ちょっと横道にそれた話を、ここで修正する。とにかく、俺は書斎を持つことを許してもらえなかったのだ。
 これからが重要だ。
 俺は妻と口論をいく度もした。口角泡を飛ばした。舌端火を噴いた。だが、その都度、俺はうち負かされた。
  むろん論理では勝っていた。だが、風水には論理もへったくれもない。妻の口から出てきた言葉は、君島のコラムの請け売りばかりだった。つまり俺は、妻とい うバカ女を通して、君島の発する邪悪な言葉と闘っていたのである。そう、妻は君島が発した情報の入れ物にすぎなかった。人間なんて、ちょっとした情報で、 どうにでもなる動物なのだ。
 軽佻浮薄な男が発する邪悪な情報がマスメディアに乗って流され、なんの罪もないまっとうな人間がその被害に遭う。そんなことが許されて、たまるものか。

 実のところ、亀井がここまで書くのに一カ月を要した。ああでもない、こうでもない、と悩みながらの執筆だった。
 数え切れないほど、DELキーで文字列を削除して入力し直した。前と後ろを入れ替えるのにコピーとペーストを利用した。デジタル辞書を駆使して、これだ、という表現を文章に挿入したりした。
 おかげで、亀井はアネキの筆箱やまぐれップを使った辞書検索にすっかり熟達していた。

----- SCENE 2 -----

 その日の昼下がり、トイレの壁にポチポチという小さな音が響いていた。亀井が便器に座ったままでスレイヴを打っているのだ。画面にはこんな文字列が表示されていた。

題 名快癒祝い
発信者kame@ami.net,・亀井遠士郎・
受取人mondo@ami.net,・門土知安・

門土知安さま、退院おめでとう。
 小生、最近すっかりスレイヴの素晴らしさに驚嘆しています。時と場 所を選ばずになんでもできるというのは、まさに門土君が言ってた「どこでも書斎」です。実をいうと、この電子メール、会社のトイレでしゃがみながら書きま した。ちょい臭いけど、紙の手紙ならこんなところじゃ書けないものね。もうスレイヴは手放せません。
 青キーで起動するプログラムもだいたい使え るようになりました。スケジュールのソフトや電話帳ソフトを使うようになって、長年愛用してきた社員手帳も捨てました(愛社精神までは捨てていません よ)。スケジュールや電話帳はもちろん、ちょっとしたメモに至るまで、あらゆるものがテキストファイルというのはすこぶるよろしい。まぐれップ検索をする ようになって、とくにそれを感じます。
 最近は女王様の網タイツに凝っていますが、まだよくわからないことがあるので、こんど教えてください。
 門土君は、そろそろ出社ですね? 早く元気な顔が見たいものです。退院祝いは派手にやりましょう(むろん爾志部長抜きで)。とりあえず今週末に、例の堺筋のエスニック料理屋「キルドール」に予約を入れておきます。都合が悪ければ連絡ください。
亀井遠士郎
end..

 そう、亀井はネットワーカーになりつつあった。
 スレイヴの横っちょに電話のモジュラージャックの差し込み口があった。そこに電話線を突っ込んだのは一週間前である。奴隷本と首っ引きで試行錯誤を繰り返したおかげで、まだよちよち歩きではあるが、立派なパソコン通信[*35]の会員になっていたのだ。
 ミニマル姉小路が主催しているパソコン通信ネットは「女王様の網タイツ」といって、スレイヴを買った人ならだれでも無料で入会できる。使用料は無料。費用は電話代だけで済む。
 スレイヴの青キーには電話の絵柄があった。それを押すと「ねえやの糸電話」という通信プログラムが起動して、特別の設定をしなければ、まっすぐ女王様の網タイツにつながる。
 トイレから席に戻った亀井は、机の電話のモジュラージャックをスレイヴに差し込んだ。青キーを押して電子メールを送るのに要した時間は、ものの一分だった。
 そして、亀井は席から立ち上がると、むっちり肥えた小男を探した。
 「おーい、ウッキーっ。ウッキーはおるか」

----- SCENE 3 -----

 雨季川[*36]は、つい一週間前、経理から営業二課に配属されてきた徳島出身の頑張り屋のことである。彼 はOJT[*37]という名の小間使い状態が続いていて、まだ仕事らしい仕事をさせてもらっていない。不器用ではあるが、世間ずれしたOLより、初々しい ぶん可愛らしく、ウッキーというあだ名で、マスコットと化している。
 「はい、はい、はい、カチョー」
 雨季川は米つきバッタよろしくやってきた。エプロン姿である。
 「なにやっとるんだ、その格好は」
 「えへへ。OLさん研修どぇーす。お茶を入れたりぃ、ファックス送ったりぃ、切手買いに行ったりぃ。あ、コピーはだめなんですけどね」雨季川は指折り数えながら説明した。「いま給湯室でケーキを食べてたところなんですけど」
 「お前、OLやりたいのか、営業やりたいのか、どっちだ」
 「そりゃもちろん営業ですよお」
 「なーら、エプロンなんかはずせ。女どもにいいように遊ばれてるってこともわからんのか」
 「でも、妻が…」
 「妻がなんだ。なんだ、なんだ。あーん? 妻がなんだ。言ってみろ!」
 「あのぉ…」
 「あのー、じゃわからん」
 「妻がOLさんの言うこと、ちゃんと聞いておけって。あとあと、仕事しやすくなるからて」
 「ったく、キンタマついとんのか、お前は」
 「…だって妻は…」
 雨季川は消え入りそうな声になった。
 「なんだ、なんだ、妻がどーした!」
 「……」
 「はっきりせんか、愚か者め」
 雨季川はなにか吹っ切れたように、大きく息を吸い込んで口を開いた。
 「だって、妻、キンタマないです! でもスゴイんですよ。たとえば、カチョーが使ってるスレイヴですけど、その中のエディター、妻がいなかったらできなかったんですからね」
 「え、なに、お前のカミさんが作ったのか、あのエディター」
  「いえいえ、だからぁー、妻が作ったのは、そのエディターの元になったプログラムです。おほん。えー、妻はですね、こーんなチンケな会社じゃなくって、 もっと大きな会社で開発担当の専務やってましてね。そこで『一女郎』っていうワープロソフトを開発したんですよ。その一部を姉小路の奴らにパクられて [*38]……」
 「パクられた?」
 「そーですよぉ。そっくりなんだもの」
 「いーじゃないか、それくらい。パクられるくらいの良いものだったっつーのは、むしろ誇りだろう。それより、チンケな会社でわるかったな」
 「すすすすんません。妻がしょっちゅう言ってるもんで、つい」
 最近の若いのは何を考えているのかさっぱりわからん、と亀井はため息をついた。
 「よし、あしたから、成外[*39]にくっついて外回りでもしてみっか?」
 亀井はにやっと笑ってみせた。成外というのは、正直、亀井自身も手を焼いている男である。
 「いやです、あんな意地悪。陰険なんだもん。親会社から出向してきてんの鼻にかけて、OLさんからも嫌われてんですよ」
 「そうか。なら反面教師として勉強できる絶好のチャンスじゃないか」
 「いいんですか、新人のボクがあんな人間になっても」
 雨季川は亀井の机をドンと叩いた。口をとがらせ、目も三角になっている。
 「人間性はともかく。とにかく仕事はヤリ手だぞ」
 「絶対イヤですう。ボカァあんな人間になりたくない」
 「じゃ、どんな人間になりたいんだ?」
 「もちろん、妻みたいな」
 ……亀井は力が抜けるのを覚えた。
 「まぁいいか。とにかくお前を呼んだのはほかでもない。雑用だ。ワープロ使えるか」
 亀井は雨季川が、ラジャ、と答えるのを確認してから、門土の退院祝いの案内状を作るよう命じた。
 亀井は雨季川の背中を見ながら冷めた番茶をすする。
 いまどきの若い男は恐妻家であるということを恥と思わんのだろうか。たとえ家で妻に頭が上がらなくても、そんな醜態を外で見せては男がすたるっていうものだろう。
 しかし、あんなやつでも、成外のことをはっきり嫌な奴だと言い切りおった。そういうところは、案外骨があるのかも知れん。よし、あしたから雨季川を成外に付けて外回りに出そう。
 亀井は腕を組んだ。
  それはそうと、敦子のやつ、ヒロミに男から電話がよくかかってくるようになったって言ってたけど、ちょい気にかかるなぁ。いくら俺に似て賢いとはいえ、ヒ ロミはまだ高校一年生じゃないか。男女交際だなんてとんでもない。ヒロミは可愛いから、モテるのはわかる。だが、むくつけき男と手をつないだり、きききキ スするなんて、断然許せん。まったくもって、けしからん……。
 「どうかなされましたか、カチョー」
 お茶のお代わりをいれてくれたOLが心配そうに亀井の顔をのぞき込んで言った。
 「ん?」
 「いえ、さっきから、独り言をぶつぶつ」
 「え、俺が? 何か言ってたって?」
 「ずいぶん長いこと、ぶつぶつと」
 「え? いや。何でもない、何でもない」
 亀井は咳払いひとつすると、目の前の書類入れに積み上げられた書類を手にとって大きく息を吸い込んだ。
 「課長、健康管理部から。二番です」
 「おお」
 亀井はビジネスホンのボタンを押して受話器を取った。
 「あのねえ、あんた」キンキン声である。元看護婦のバアさんだ。「人間ドックを二回連続ですっぽかすやなんて、どないなってますの」
 体に自信があるわけでは決してないが、なんだか面倒くさかったのはたしかだ。
 「こらまた、ご迷惑かけてます。来月、来月にはぜったい行きます。申しわけない。カチョーになってから、なかなか休めなくて」
 「あんた、前もそんなこと言ってたやないの。ええ加減にしなさいや」
 チっ、というバアさんの露骨な舌打ちが聞こえる。
 「これが最後ですからね。来月十五日。いいですか、朝九時に必ず行ってくださいよ。過労死しても会社の責任とちゃいますから、ほんまに」
  ほうほうのていで受話器を置くと、亀井は内ポケットからスレイヴを取り出して、スケジュールのソフトを起動し、十五日の朝九時のところに「なにがなんでも 人間ドック」と入力した。そのついでに、亀井はまたしてもまたしても姉小路社のパソコンネット網タイツに接続してみた。

----- SCENE 4 -----

 亀井は点滅しているカーソルのところに、半角数字の「5」を入力した。打てば響く、である。画面が上へ上へ と流れていき、画面の下の方から、1・昼日、2・毎田、3・読瓜、4・産軽、5・日計……という項目が出てきた。つまり、亀井のスレイヴの画面に、勝手に 書き込まれたのだ。
 亀井は太い指で数字の1のキーを押してからEnterキーを押した。昼日を選んだのだ。すると、1・政治、2・経済、3・外信、4・社会……といった記事のジャンルがまたもや下から這いあがってきた。
 大項目から枝分かれした小項目をたどるように、次々と選択肢が現れるこの方式は、網タイツに限ったものではなく、ニフティサーブなど多くのネットでも用いられている。奴隷本はそんなふうに説明していた。
 亀井は2を入力して経済記事を選んだ。
 なんだ、朝見たときのままか。
 亀井は毎田の社会ニュースや、日計の産業ニュースなど、仕事に関係しそうな項目を見て回った。
 だが、通勤電車で目を通した以外のニュースは新たに追加されていなかった。
 ま、無理からぬことだな。
 そんなことをつぶやきながら、亀井は再びトップメニューに戻った。
  ミニマル姉小路という京都の零細企業の小さなパソコンネットに、天下の大新聞社が記事を配っているわけではない。網タイツにあるニュースは、チームマネド スのメンバーがインターネットで新聞社が無料公開してるニュースをちゃっかり転載[*40]しているのだ。すべてボランティア活動。しかも無料。文句を言 うどころか、感謝の気持ちすら沸き上がる。
 亀井は網タイツを知ってから朝の習慣が変わった。起き抜けにトイレで朝刊を読むのはやめた。ゆったりした気持ちで妻が作ってくれた健康志向の朝食を食べ、ヒロミと冗談を言い合いながら朝の連続テレビドラマを見るようになっていたのだ。
 朝刊は満員電車で読む。ぎゅうぎゅう詰めの電車でもスレイヴを開けば、そこは亀井にとって書斎。一時間ほどの間、押し合いへし合いしながらも、電車の中は、ニュースを読むのに集中できる快適な場所になりつつあった。
 それにしても、こういうのは著作権法違反[*41]じゃないのかな。ふとそんな心配が脳裏をかすめることもあったが、もともと無料で公開されているんだから、いいんだろう。
 亀井はトップメニューから、『フリーソフトウエア倉庫』というのを選んでみた。そこにはコピー自由の膨大なプログラムが保管されていた。門土や紺譜伊具のシズならいざしらず、亀井にはまだまだ要領を得ないコーナーである。
  そこにはOS別にさまざまなプログラムが整理整頓して並べられていた。こちらも選択肢をたぐって目的の場所へいくようになっている。マネドス用のものもあ れば、DOS用、ウインドウズ用、マックOS用、OS/2用、PC-UNIX用……といろんな種類がある。納められているソフトも、エディターから、イン ターネット用のソフト、表計算ソフト、印刷ソフト、ゲームまでなんでもござれであった。
 奴隷本は、ネットにあるコピー自由のプログラムを自分のパソコンに取り込むことを「ダウンロードする」、と説明していた。だが、どうしていいのかわからない。ダウンロードという耳慣れない言葉が、ちょっと怖い。
 ま、門土が退院したら教えてもらうとするか。
 次に、亀井が訪れたのは『フリーデータ倉庫』であった。こちらは理解できるコーナーだ。しかし、初めてここを訪れたときは、さすがに当惑した。
  まず、法律の条文や判例があったのだが、これさえあれば六法を買う必要がないのだ。官庁が発表している統計資料もあった。大蔵省の通関統計や経済企画庁の 景気動向指数、日銀の短観、外務省の海外安全情報なんてのまである。とにかくマスコミに発表されるデータは次々とここに入力されていた。これがあれば日計 産業新聞を読む必要がない。
 チーム・マネドスには新聞記者もいて、役所の記者クラブで発表されるデータを転載してくれているのだ。君島のようなマスコミ芸者は断じて許せないが、記者の中にはなかなか見上げた奴もいるのだな、と感心する。
 このほか、フリーデータ倉庫には、ビジネス手帳によく書かれてるような、度量衡換算表や時差表、年齢早見表などもあった。スレイヴに取り込めば便利なことウケアイである。
  また、フリーデータには著作権の切れた文学作品の類も大量にあった。「不思議の国のアリス」「クリスマスキャロル」「ジキル博士とハイド氏」「ハックルベ リーフィンの冒険」それに「共産党宣言」なんてものまである。そして、すべての作品の冒頭部分には、グーテンベルグ計画の電子テキストについての説明文が 書かれてあった。どれもこれも英語なので亀井にはお手上げだったが、これこそ、門土が居酒屋で唾飛ばしながら言っていたやつだな、と思い起こすのだった。
 不思議な気持ちがした。
 こうも膨大なファイルが、ボランティアというか、善意で集められ、どうぞ持ってってください、と目の前にでーんとある。いや、正確にいうと姉小路社のホストコンピューターに保管されて、〇円の値札が付けられている。
  解せん。どうもわからん。いったいどういうことだ。なんでゼニを取らんのだ。働かざる者食うべからずというが、働いておいて食わんなんてことがあるのか。 根っからのお人好しでないとすれば、これを作った奴らは、プログラムを作ってる会社とか、古い本を売ってる出版社の商売を邪魔しようっていう魂胆なんだろ うか。うーむ、やっぱり解せん。
 スレイヴの黒い画面に浮き出た白い文字を見つめながら、亀井はすっかり混乱し、再び独り言をぶつぶつ口にしているのである。

----- SCENE 5 -----

 亀井のスレイヴの上に、紙が置かれた。
 「カチョー、できました。門土さんの退院祝いの案内状。これでええでしょうか」
 顔を上げると、雨季川が嬉しそうな顔をして目の前に立っていた。
 「おお、すまん、すまん。ご苦労だった」
 だが、亀井は案内状を見て目が点になった。
  文字は、縦倍角の草書体と四倍角ゴチック文字が使われていた。それはいい。有刺鉄線でマグロを亀甲縛りしたイラストやら、リンゴをかじる歯ぐきの絵など が、ところ狭しと描かれているのはどういうことだ。どれもこれもギトギトした原色である。隅っこには意味のない立体棒グラフまである。
 「病人の快癒を祝う会なんだぞ」
 「ワープロのすべての機能を使いました」雨季川はむしろ胸を張っている。
 「まあいい」亀井は雨季川に案内状を差し返した。「とりあえず、こいつを十部ほどコピーしておいてくれ」
 雨季川は血相を変えた。「絶対いやです」
 「え?」
 「コピーはだめです」
 「なんでだ」
 「コピーするのはちょっと…」
 「だからなんでだ」
 「あの…」
 「はっきり言わんか」
 「妻が嫌いなんです、コピーするの。『一女郎』っていうワープロソフト、出来がよかったもんだから、結構コピーされちゃったんですよ。だから、妻から、コピーだけはしちゃいけないって、いつも言われてるんですもん」
 亀井はため息をついて言った。
 「わかった。コピーは俺が自分でする。お前さんはOL研修の続きやってこい」亀井はコピー機の方に足を向けようとして、ふと雨季川のほうを振り返った。「あしたからスカートで出社してくるんだ!」

========== ACT 6 に続く ==========

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